時間と内的世界の旅
「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」展
東京都庭園美術館 〜11/27(日)
100年前の朝香宮夫妻(庭園美術館は、元・朝香宮邸)のヨーロッパ旅行の際の写真と展示から始まり、
その40年後に同じ航路で渡仏した、世界的デザイナー高田賢三氏の旅の写真と民族衣装に触発されてデザインした、彼の服が少し展示されている。
さらに進んでいくと、鉄道資料コレクターのレトロなコレクションが並べられていた。
(カンテラや看板に、昔の新幹線のシート!旅のカラフルなパンフレットや鉄道ポスター、駅の振り子時計などなど)
ここまでが、レトロコーナー。
後半は現代作家たちの作品が展示されている。
本を、読む物ではなくオブジェとして作り直した福田尚代氏の作品。
かつての図書館屋としては、複雑な心境になるが、鳥のように美しい作品になっている。
宮永愛子氏の作品は、漬物石くらいの大きさの氷のように澄んだ塊が、点々と展示室の中やベランダに置かれていて、日光を取り込み輝いている。
同氏の作品はもう一種。水が凍ってできたように見える透明なトランクケースの中に、閉じ込められた幾つもの鍵が見える。
この鍵は何を「開く」物なのか、考えてみると楽しい。
相川勝氏の作品は、幼い頃に家族で旅したパン・アメリカンハイウェイの乾いた黄土色の平原に伸びる一本道をひたすら進む映像で、彼が昔見た風景を追体験できるような展示になっている。
荒野を旅する写真もエキゾチックで、どこか懐かしさを感じる。
さわひらき氏の映像作品は更に抽象度を増し、庭園美術館内部のモノクロ映像に、ミニチュアの飛行機や馬の映像が重なり、不思議な世界を見せてくれる。
だいぶ長い作品なので、暗い上映部屋にいると、時間がわからなくなる(笑)
次に、栗田宏一氏の地道に集められた土のサンプル群には、圧倒される。
その根気と集中力は、とても余人が真似できるものではない。
また、部屋一面に、着色した土を碁盤の目のように並べた作品は、絨毯のように美しい。
そして最後に、私に新鮮な感銘を与えてくれた展示は、evala氏の音によるインスタレーション。
紫色の暗い部屋に入ると、最初は足元も見えないので少し怖さを感じる。
恐る恐る、ぼんやり見える腰掛けられそうな場所に落ち着き、音を聴く。
ジャングルの中のような鳴き交わす鳥の声と金属音や鐘楼の鳴る音、雷鳴、など自然音と人工音が混ざり合って響いて来る。
「これは何の音だろう?これはアレかな?」など頭の中であらゆる音の記憶を探り、音を認識していく過程は、耳で受け取った作品を自分で解釈して自らの中に収める作業だ。
音を分解して整理し直して受け取る、頭の中の作業は、時としてその音にまつわる自分の記憶をも手繰り寄せる。
全体として「旅」をテーマに、時代や自身の想像力の中まで内外を旅する体験ができる、深く膨らみのある展覧会であったと思う。